finalvent氏の「自分の子をアウシュビッツに…」発言を考える(1)

ホテル・ルワンダパンフ論争について、そろそろ時間がなくなってきたこともあり切り上げようとも思ったのだが、どうしても1点だけ曖昧にすませられない問題が残っている。

finalvent氏の「アウシュビッツ」を引き合いに出した発言である。
私は3月7日エントリーfinalvent氏の一連の主張を検討したが、この時点では単に「過剰な他者恐怖」を動機にしているのではないかという指摘にとどまっていた。
しかしこの分析では不十分で、finalvent氏はかなり意図的に読み手の「不安」や「恐怖」を煽った可能性が高いと思う。


gachapinfan氏の「「ホテル・ルワンダ」パンフ論争のまとめ」でも、この点への言及がある。

2.3. 「ホテル・ルワンダ」の意味について言及することなく関東大震災の虐殺はジェノサイドではなかったと言いつつ、それと同時に、(根拠なしに)日本人はアウシュビッツ送りにされかねないと煽り立てるのは、場違いの被害妄想あるいは歴史修正主義的言説だと受け取られても仕方あるまい。


またこの点については、「Apes! Not Monkeys!」の「遅ればせながらひとこと」コメント欄で、Apeman氏、NakanishiB氏、MacacaFuscata氏の各氏によって次のようなコメントが交わされている。これらの意見を参照しつつ、後日自分の考察をまとめるつもりである。以下のコメントは抜粋であり、全文はリンク先を参照されたい。

(NakanishiB氏)
町山氏の議論と反するように思うかもしれませんが、大日方純夫氏の「警察の社会史」によれば、日比谷焼き討ち事件に恐怖した警察政策の転換の産物として「自警団」はうまれ、基本的にその政策は震災後(更なる国民の警察化という方向への加速という形で)も変わらなかったそうです。

 しかし、そんなこと調べればわかるのだからデマゴーグとしてもレベルが低すぎるので、もういちど「日本人」に関東大震災時の悲劇を再現させようと誘導する「陰謀」かと思えてしまう。(「」を付けてるよ!)

(NakanishiB氏)
いやあまりにひどいので途中まで書いたけどおちがつかなくて放棄したわけです。今改めて書くとすれば。(中略)

 うーん、私の第一の論点は、某氏のエントリーは、ルワンダ朝鮮人虐殺の「違い」を強調しているけれど、朝鮮人虐殺が「恐怖」を動機とした事件であるというその「違い」自体を隠して、某氏が「憎悪」を抱いた「隣人」として朝鮮人を描いて「恐怖」を煽るのは、自らの言動の欺瞞を隠した完全にインチキの議論だということです(まあだから偽ユダヤ人なのでしょう)。これは誰も言わないのならいう必要がありますね(気づく人が多いと思うけれど)。

(NakanishiB氏)
他に、虐殺は政府にとっては治安政策の失敗であるけれど、それは自ら作った治安体制が未完成なので暴走したということでしょうか(町山氏やgachapinfanさんとはちょっと違います)、こちらの論点はその後の戦時体制までの継続を視野に入れないとまずいのでちょっと大変で(^^ゞ。

(Apeman氏)
>そんなこと調べればわかるのだからデマゴーグとしてもレベルが低すぎるので

素朴な嫌韓厨の方がよほどましですね、いっそ。

(NakanishiB氏)
>素朴な嫌韓

 「寒気」という言葉で「恐怖」が基底にあることを示してしてくれた方のほうがよっぽどましです。

(MacacaFuscata氏)
Gravatar finalventさんとmahorobasukeさんの関係にはこれと同じことが言えそうです。

http://takeyama.jugem.cc/?eid=288
”「お上品な右翼」は、「過激な右翼」のような主張を公言しないが、陰に陽に「過激な右翼」をサポートし、結果的に、社会全体を「過激な右翼」が主張する方向に持って行く”

(Apeman氏)
おっしゃる通りですね。彼を支持する人々が「偽ユダヤ人がアウシュビッツを用いて煽っている文章を引用」することの意味についてあれだけ無頓着なのも理解に苦しみますが。

追補;NakanishiBさんは自身のブログで、これは大震災の虐殺の「ネット上のパロディ」であると述べている。
http://d.hatena.ne.jp/NakanishiB/20060312/1142115440より引用

さて、結論を述べると「違い」を述べることができないのは、「関東大震災における朝鮮人虐殺についても同じ枠組みがあるかと私は思う」という一行で尽きているでしょう。「同じ枠組み」とは「ある集団≒朝鮮人は日本人に憎悪を抱いている、彼らが受けた被害を認めることは我々日本人を命の危険にに陥れる」、これってまさに大震災の虐殺における流言蜚語そのままじゃないですか、

町山氏がリンクしたページの人が「寒気」を憶えているのと参照してください。このような「恐怖」ゆえの団結と排除こそが関東大震災の虐殺の原因だとすれば、それをパロディ的に繰り返しているエントリーである以上決して「違い」を記述できないわけです。その後に話が移っていくのは当然でしょう。

もちろん、現在の日本はルワンダでもないし、大正でもない。しかし、不安が蔓延して治安への衝動が噴出しかかっていると思います。転換点にあるとはいえ行政システムがきちんとある。その時に「何」を信頼するか?どのように不安を沈静化させるか?。面倒くさいので彼の治安や安全保障に関する発言は調べません。それでも彼が「何」を頼りにしているのかは明白でしょう。おそらくあのエントリーはそれほどきちんとした意図の基に書かれたのではないでしょうし、この騒動自体が「虐殺」のネット上でのパロディであり、現在の「不安」の中での一つのアクティング・アウトだったとも見るべきではないでしょうか。